【建築のひとコマ⑤】景色を邪魔しない、丘に埋まるカフェ

こんにちは!長野で注文住宅・デザイン住宅を手がけている「ALOHA100」設計の中澤です。
建物の形や納まりに隠れた工夫を、設計を学んだ視点から紹介する「建築のひとコマ」。
今回は、静岡県伊東市にある小室山にある建築です。

伊豆半島にあるこの小さくてなだらかな小室山。
東伊豆エリアでは相模湾や太平洋を一望できる絶景スポットとして人気の場所です。

山頂へ向かうのは、どこか懐かしさを感じる一人乗りのリフトです。
今ではゴンドラやロープウェイで山頂まで一気に上る場所も多い中、ここでは足元すれすれの高さを、ゆっくりと進んでいきます。
少しレトロで、乗り物というよりアトラクションのよう。
山頂に着くまでの時間も含めて、小室山の楽しさなのかもしれません。

リフトを降りると、目の前に広がるのは海と街を見渡す大パノラマ。
遠くには熱海の街並みも見えました!
小室山の標高は321メートル。
決してものすごく高い山ではありませんが、海のすぐ近くに立っているため、数字以上の開放感があります。

ちなみに、スマホで景色を撮っていたところ、晴れている場所と曇っている場所の境界が偶然一枚に写りました。
山頂から広い空と海を見渡せる小室山ならではの、ちょっと面白い一枚です。

山頂を1周ぐるっと回れる遊歩道が整備されています。
木道と芝生、いい雰囲気だなと思いながら歩いている人を目で追いかけていると...芝生の丘の中に何かが埋まっていることに気がつきました。
それが今回の主役、「Café・321」というカフェです。
最初は建物だと気づかないほど、屋根と芝生がなだらかにつながっています。
山頂にカフェが建っているというより、もともとあった丘の一部をそっと持ち上げ、その下に空間をつくったような姿です。
一般的な建物では、「壁」「屋根」「地面」の境界がはっきりとしています。
しかし、ここでは地面がそのまま屋根へと続き、屋根の上を人が歩き、その先に再び芝生が広がっています。
どこまでがランドスケープで、どこからが建築なのか。
その境目が、かなり曖昧です。

(画像:石井建築事務所様ウェブサイトより)
建物の設計では、周囲の自然に合わせた色や素材を使うことを「自然との調和」と表現することがあります。
もちろん、それも一つの方法です。
しかし、このカフェは建物の色を自然に近づけるだけではなく、建物の形や高さ、さらに人が歩く経路まで地形の一部として考えています。
建築を自然に似せたというより、建築そのものを風景の中へ埋め込んでいるのです。
今回はカフェを利用せず、外から眺めただけでした。
それでも、海を背景にした派手な建物より、景色を邪魔しないこの控えめな姿のほうが強く印象に残っています。
建築というと、つい「何を建てるか」「どんな形を見せるか」に目が向きます。
けれど、この場所で大切なのは、あくまでも小室山から見渡す海と空です。
主役である景色を引き立てるために、建築が一歩引く。
それでも人が立ち止まり、歩き、景色を楽しむ場所として、きちんと役割を果たしている。
建物を目立たせることだけが、建築の魅力ではありません。
ときには周囲の風景へ溶け込み、存在感を消すことによって、かえって記憶に残る建築になる。
小室山で出会ったのは、ランドスケープと建築の境界を感じさせない、景色のためのカフェでした。





