【建築のひとコマ④】外側にもう一枚。保田小学校の新しい縁側

こんにちは!長野で注文住宅・デザイン住宅を手がけている「ALOHA100」設計の中澤です。
建物の形や納まりに隠れた工夫を、設計を学んだ視点から紹介する「建築のひとコマ」。
今回は、千葉県鋸南町にある「道の駅 保田小学校」です。

ここは2014年に閉校した小学校をリノベーションし、翌年、道の駅として生まれ変わった施設。

かつての教室には飲食店や宿泊室が入り、体育館は農産物やお土産が並ぶ直売所として再利用されています。

到着して最初に感じたのは、

「思っていたより、学校っぽくないな」

ということでした。

横に長く続く建物や規則正しく並ぶ窓には、どことなく学校らしさが残っています。

しかし、その外側には半透明の壁や植物が重なり、いわゆる昔ながらの小学校とは少し違った表情をしています。

ところが、建物の中を歩いてみると、「6年2組」と書かれた教室札を発見。

外から見た印象とは反対に、内部には小学校だった頃の記憶が随所に残されていました。

さらに2階へ上がると、長い廊下のような空間が現れます。

頭上にはテントのような布が掛けられ、机や椅子が並んでいます。

「ここは室内なのか、それとも屋外なのか」

一見しただけでは分からない、不思議な空間でした。

しかしこの空間をよーく見てみると...

“あれ?右側の壁って明らかに外壁材だよな...”

ようやくこの空間のつくりに気が付きました。

元の校舎にあったベランダの外側へ、さらにもう一枚、新たな外壁を加えていたのです。

つまり、かつて外部だったベランダを新しい外皮で包み込み、半屋外のテラスへとつくり変えていました。この全長約75メートルの空間は、「まちの縁側」と名付けられています。

校舎の内部を大きくつくり変えるのではなく、建物の外側へ新しい層を加える。

そうすることで、これまで教室の前を通るだけだったベランダが、人が座ったり、食事をしたり、立ち話をしたりできる居場所へと変わっています。

完全な室内ではないけれど、雨や強い日差しからは守られる。外の空気を感じながらも、どこか落ち着いて過ごせる。

「縁側」という名前が、まさにぴったりです。

改めて1階に降りてみると、この新たな層が店舗の前をつなぐ屋根付きの通路となっていました。

教室をそれぞれ別の店舗へ転用するだけでは、店ごとに空間が分かれてしまいます。

しかし、その前に長い縁側を通すことで、複数の店舗がひとつの商店街のようにつながって見えます。

単に人が移動するための通路ではなく、店先に商品や看板を並べ、人が立ち止まることのできる“間”になっているのです。

そして、あとから調べて分かったのですが、この「まちの縁側」には、単なる滞在スペースとは違う、もうひとつの役割がありました。

日射や風の流れを調整し、既存校舎の暑さや寒さを和らげるための空間でもあったのです。

(画像:architecture WORKSHOP様ウェブページより)

小学校の教室といえば、夏は窓際がものすごく暑く、冬は反対に冷え込む印象があります。

私自身、小学生の頃は、季節によって窓際の席が少し過酷だった記憶があります。

保田小学校は、建物をすべて新しく建て替えたわけではありません。

元の校舎や窓を残しながら、新しい用途へ転用しています。

そのため、既存の外壁だけで快適な室内環境をつくるには、限界もあったのだと思います。

そこで、校舎の外側にもう一枚の層を加え、教室と屋外の間に緩衝帯をつくる。

夏はテントによって強い日差しを遮り、開口部を開けることで内部にこもった熱を外へ逃がす。一方、冬は外側の開口部を閉じ、日射によって温められた空気を活用することで、室内へ伝わる寒さを和らげる仕組みになっています。

このテラスは、人が集うための居場所であると同時に、外の暑さや寒さをそのまま教室へ伝えないための、環境的な緩衝帯でもあったのですね。

空間としての魅力と、建物の弱点を補う環境性能。

その二つを、外側にもう一枚の層を加えることで同時につくり出していました。

なるほど。そうしたか。

旧体育館も、農産物やお土産を販売する直売所へと再利用されています。

下部はガラス張り、上部は半透明の外装で覆われ、体育館だった頃の大きな骨格を生かしながら、明るい市場へと姿を変えていました。

この天井、懐かしいですよね。

元が体育館だったということもありとても開放感があります。

また、保田小学校は道の駅ということもあり、オリジナル商品の充実度がとても高い印象でした。

お菓子から文房具、クリアファイル、服、キーホルダーなど...

オリジナルコーナーを見るだけでもあっという間に時間が過ぎてしまうほどでした。

リノベーションというと、古い建物をきれいに直し、元の姿をできるだけ残すことを想像しがちです。

しかし、保田小学校で行われていたのは、単に昔の姿へ戻すことではありませんでした。

教室札や窓、机、体育館の大きな骨格など、小学校だった記憶は残す。

一方で、外側には新しい層を加え、道の駅として必要な動線や居場所をつくる。

「残す部分」と「加える部分」が、はっきりと分けられています。

元の建物を無理に新しい用途へ押し込めるのではなく、今の建物に足りないものを外側へつくり足す。

それによって新しい居場所を生み出し、人の流れをつなぎ、さらに既存校舎が抱えていた暑さや寒さまで和らげてしまう。

建物を生かすとは、昔の姿をそのまま保存することだけが正解ではありません。

保田小学校の外側に加えられた「まちの縁側」は、小学校の記憶と道の駅のにぎわい、そして屋内と屋外を緩やかにつなぐ、もう一枚の外壁——いえ、もう一枚の居場所なのかもしれません。

人口減少や少子高齢化が進む今、地方はもちろん、街中の小学校でも閉校や統合の話が出ていることを皆さんはご存じでしょうか。

これから廃校が増える中、廃墟となるのではなく保田小学校のように第二の人生を歩む学校が増えてほしいなと散策しながら思ったのでした。