【建築のひとコマ③】買う場所から、過ごす場所へ

こんにちは!長野で注文住宅・デザイン住宅を手がけている「ALOHA100」設計の中澤です。
建物の形や納まりに隠れた工夫を、設計を学んだ視点から紹介する「建築のひとコマ」。
長野県茅野市にある商業施設、ベルビアで何やら大きな変化があったとのこと。

今回はそんなベルビアを調査してきました!

 

人口減少や買い物のEC化、郊外型ショッピングモールの充実。

私たちの買い物の仕方が変わるなかで、地方都市の駅前にあるデパートや商業施設は、厳しい状況に置かれています。

茅野駅西口に位置する商業施設「ベルビア」も、そのひとつでした。

以前訪れたときには、閉店したままの区画が目立ち、営業している店舗があっても、館内にはどこか人の気配が少ない。

駅のすぐ隣という好立地でありながら、少し物寂しい雰囲気が漂っていました。

そんなベルビアの1階に、2026年4月、新たな複合交流拠点「8Peaks living」が誕生しました。

中へ入って最初に感じたのは、以前のベルビアとは空間の印象がまったく違うことでした。

一般的な商業施設では、中央に通路があり、その両側に店舗が並びます。

それぞれの店は壁やガラスで区切られ、目的の店で買い物をしたら、また通路へ戻るというつくりです。

しかし8Peaks livingでは、書店、ショップ、飲食店、ラウンジといった異なる機能が、ひとつの大きな空間の中で緩やかにつながっています。

どこからどこまでが通路で、どこからが店舗なのか。その境界は、あまりはっきりしていません。

本を眺めていた人が、そのまま隣のショップへ立ち寄る。

食事を終えた人が、少し離れたソファで休んでいく。

目的の異なる人たちの動線が、同じ空間の中で自然に重なるようにつくられています。

この「境界の曖昧さ」が、人と人の距離を緩やかに近づけているように感じました。

なかでも印象的だったのが、空間の中央に置かれた長いテーブル。

店舗ごとに席を囲い込むのではなく、ひとつの大きなテーブルを複数の人が共有する。

向かい合って会話をしなくても、誰かが食事をしていたり、本を読んでいたり、仕事をしていたりする気配が自然と伝わってきます。

大勢で集まる場所というより、それぞれが別のことをしながら、同じ空間を共有する場所。

施設名に「living」と付けられている理由が、この風景からも分かる気がします。

建物の奥のほうには、会員制と思われる上質なラウンジも完備。

空間の中には、過ごし方の異なる居場所がいくつも用意されています。

人が集まる場所をつくると聞くと、つい大きな広場をひとつ設けることを考えてしまいます。

しかし実際には、人によって心地よい距離感は異なります。

にぎやかな場所にいたい人もいれば、少し離れた場所からその気配だけを感じていたい人もいる。

家具の種類や向き、照明の明るさを変えることで、広いワンフロアの中に小さな居場所をいくつもつくっている点も、この空間の面白さです。

そして、もうひとつ気になったのが天井です。

天井をきれいに覆い隠すのではなく、コンクリートの躯体や配線、設備などが見える状態になっています。

新しく仕上げられた白い天井や木質の家具と、建物がこれまで使われてきた跡を残す荒々しい天井。

その新旧の対比によって、この場所が新築ではなく、既存のベルビアを生かしてつくられた空間であることが伝わってきます。

古いものをすべて隠して、新築のように見せるだけがリノベーションではありません。

建物が持っている時間を残しながら、今の使い方に合わせて新しい要素を加えていく。その重なり自体が、この場所の個性になっています。

既存の建物が持つコンクリートの質感に、木や布、植栽、赤いサインが加わり、無機質になりすぎない空間がつくられています。

公式に掲げられた空間コンセプトは「土・縄・風」。

縄文文化が息づくこの地域の「土」を大切にし、人と人が「縄」のように結ばれ、ここから新しい「風」が生まれていく。その考え方は、建物を細かく分断せず、人や機能を緩やかにつないだ構成にも表れているように感じます。

ここ茅野駅は、諏訪東京理科大学へ通う学生たちの玄関口であり、八ヶ岳や霧ヶ峰を目指す観光客が立ち寄る場所であり、そして市民が日常的に利用する場所でもあります。

年齢も、訪れる目的も、滞在する時間も異なる人たちが行き交う駅前。そのすぐ隣にある8Peaks livingは、そうした多種多様な人々を、ひとつの空間の中でうまく受け止めているように感じました。

学生が本を眺めたり、ラウンジで時間を過ごしたりする。その近くで観光客がバスを待ち、地元の人が食事や買い物を楽しむ。誰かひとつの層に向けてつくられた場所ではなく、それぞれが異なる目的を持ったまま、同じ空間を共有できます。

駅前という、多種多様な人が行き交う場所だからこそ、この境界を細かく区切らない空間構成が生きてくるのだと思います。

インターネット通販の品揃えや、郊外の大型商業施設の便利さに、地方の駅前商業施設が正面から勝つことは難しいと思います。

だからこそ、8Peaks livingは、かつてのデパートのような姿をそのまま取り戻そうとはしていません。

商品をたくさん並べる「買うための場所」ではなく、食事をする、本を眺める、仕事をする、誰かと会う、バスを待つといった行為を重ねた「過ごすための場所」へ。

商業施設そのものの役割を、今の時代に合わせて組み替えています。

もちろん、建築を新しくしただけで、まちににぎわいが生まれるわけではありません。

これからどのような人が集まり、どのような使われ方が生まれていくのか。空間は完成しましたが、この場所づくりは、まだ始まったばかりなのだと思います。

ただ、人が滞在できない場所に、人との交流は生まれません。

駅前再生とは、昔のにぎわいをそのまま取り戻すことではなく、今の時代に必要な居場所をつくることなのかもしれません。

かつて静けさの目立っていたベルビアに吹き込んだ、新しい風。

その風がこれから人と人を結び、茅野駅前へどのように広がっていくのか、楽しみです。